型にはまらず、一人ひとりが自分のキャリアを考えられるような支援と環境づくりを目指して

身近にいそうな誰かの人生観をはじめとしたキャリアストーリーをお届けするインタビュー記事。第29回は、哲学・医療・キャリア支援と幅広い経験を積まれ、型にはまらないキャリアを歩んできた田口さん。身近にいそうなキャリアストーリーとは少し離れてしまいましたが、色々な人のキャリア支援を目指したい思いについて語っていただきました。

 

自分の好奇心に忠実だった子ども時代

 

子どものころを振り返ると、記憶中心の学校の勉強に飽き足りず、教科書に書いていないような事実を自分で調べたり、誰も知らないような真実を知りたいという好奇心が強かったですね。

 

小学校高学年から歴史上の人物の偉人伝などを読み始め、中学生の頃には日本と世界の歴史書から中国の諸子百家へと読み進み、高校生の年頃には古代のインドやギリシアの哲学といった古典だけでなく、現代の科学や哲学、文学などの書物へと読書世界を広げて行きました。

この頃にリベラルアーツに触れた体験は自分の大事な基盤になっています。

 

当時はまだインターネットが普及していなかったので、知りたいことがあったら本を探すか自分で調べるしかありませんでした。

学校に行かずに都心へ出かけ、歴史や古典を学ぶ大人の研究会やコミュニティに参加するなんてこともしていました。

 

戦争経験者がまだ沢山いらっしゃったので、貴重な経験でした。いろいろと詳しそうな大人をつかまえては質問攻めにしていましたよ(笑)。

 

今も変わりませんが、世界を知りたい、自分を知りたい、という好奇心が強い子どもだったんだと思います。

学校の外の世界に出て行って、他の世代の人たちと交流して自分の世界を広げることで、学校では知り得ないような視点や考え方を、この時期に身につけたのだと思います。

 

 

哲学と出会い、さらなる学びの道へ

 

一応、中学は卒業させてもらい(笑)、自学自習で大学入学資格検定(大検)を受け、合格しました。

コピーライターの父親や日本画家だった祖父の影響もあり、当時はクリエイティブの仕事をしようと考えていたので、文化学院というリベラルアーツと芸術が学べる学校(現在は閉校)に通い始めました。

 

著名な文学者や芸術家の方々から直接指導を受け、当初は演劇や詩、批評などの創作活動に励んでいたのですが、沢田允茂先生という老哲学者と出会ったことがきっかけで、大学で哲学を学ぶ道に進むことを決めます。

当たり前と思われていることに問いを投げかける哲学というスタイルを、学問としてだけでなく、生き方としても実践されているお姿に感銘を受けたのだと思います。

 

その後、編入学した北海道大学では哲学に関して幅広く学んだのですが、専門分野として選んだのは、沢田先生から教えを受けた「分析哲学」という分野でした。

分析哲学って聞かない言葉ですよね。言語分析や論理学を使って哲学や科学の問題を研究する分野なのですが…言語と論理に着目した哲学研究、ぐらいに捉えていただければ大丈夫です。

 

卒業論文では「人間がいかに言葉を使ってルールをつくり、ルールに基づく共同行為を通じて制度や社会をつくっているのか」という社会の基本的な論理構造について書き上げました。

 

そこで、「よりよい社会をどう実現するか?」という、より実践的・政治哲学的な問いを探究するため、東京大学大学院(相関社会科学専攻)に進み、哲学だけでなく社会学や政治学、法学などの関連領域も学び始めました。

そこで2000年に成立した介護保険法の立法過程に関する修士論文を書き始めたのです。

 

以前の日本は家族介護がベースでしたが、核家族化と少子化が進んで家族間で支え合うことが難しくなったことから、1980年代頃から「介護の社会化」の必要性が議論されていました。

現実の社会変化の中で家族や法制度のあり方、あるべき姿が変わらざるを得ない状況が、とても興味深かったのです。

 

理論を学ぶことは好きなのですが、“学問のための学問”には興味がないんです。

せっかくなら現実の世界/社会に貢献できること、理論的・哲学的に考えたことを現実に上手く反映できそうなテーマを選び研究したわけです。

 

 

 

立法過程について学び、仕事をする中で決めた、医療分野への道

 

立法過程に関する論文を書くにあたり、リアルな政治の現場で何が起きているのかを知るために、国会議員のインターンを始めました。

政策の調査・立案のサポートをしながら政治家の会議や、官僚や専門家などとの会合に参加して政策立案の現実を体感できたのは貴重な経験でしたね。

 

インターン終了後も政策スタッフ、公設秘書として議員事務所に残ったため、時間をやりくりしながら結局3年かけて修士論文を仕上げました。

 

そのまま博士課程に進む道もありましたが、がん対策基本法などの医療関連の立法過程に深く関わった経験から、医療政策に携わりたいという思いが強くなっていました。

医療界の方々とのネットワークが広がっていたのも大きかったですね。

 

医療政策の調査立案や政策提言をできる場所はどこだろうか?と考えた結果、政策シンクタンクに就職し、主に医療政策の提言作成やそのために必要な情報収集を担当しました。

 

それと並行して東京大学医学部の客員研究員として研究をつづけ、さらに仕事での提言力強化のために東京大学大学院の博士課程(広域科学専攻)に進学、医療分野の科学技術ガバナンス研究を始めました。

 

そんな中、医療界で著名な都内の医療法人理事長から「うちに来ないか?」とお声がけいただきました。より、医療現場に近い場所で仕事をしたいと思い始めていた時期だったので、喜んで転職することにしました。

 

 

 

 

 

大きくキャリアを変えた東日本大震災

 

その医療法人で理事長補佐として仕事をしていたさなか、2011年3月11日を迎えます。

 

東日本大震災という国難を前に、自分も何かしなければという強い思いから、理事長の許可を得て、政府・与党・医療関連団体で構成された被災者健康支援対策チームの事務局に参画しました。

 

こういった活動を許可してくださった理事長には感謝しかありませんね。

そこでは毎日国会に常駐し、被災地から届く情報を整理・分析して各省庁や首相官邸に繋げる仕事をしていました。

 

そのかたわら、全国の医療関係の仲間と連携して、東北の三陸地方や福島に向けた物資/医療支援もしていたのですが、阪神淡路大震災とはちがう東日本大震災特有の課題を体感していました。

 

稼業を失い、コミュニティが分断されたことで生まれる高齢者の孤立などです。

その課題に対して中長期的な支援のモデルづくりにも取り組みました。その時に出会った友人たちとは、今でも交流を続けています。ある種の戦友ですね。

 

そんな活動を知って、アメリカのインテル財団が援助を申し出てくれました。

その援助を受けて立ち上げたのが、一般社団法人フューチャー・ラボです。これは災害支援や防災教育を主目的とする非営利組織で、東北への支援だけでなく、例えば浦安市長と連携して市内中学生のリーダー養成塾の生徒たちにITも活用した実践的な防災教育プログラムを提供する「DECO(災害対応訓練コーチング)」プログラムなどを開発、実践しました。

 

このDECOでは、災害派遣医療チーム(DMAT)のメンバーを講師に招いて、よりリアルな状況での応急処置を教わったり、タブレットを使ってデジタルのハザードマップを作ったりします。

 

加えて、模擬災害対策本部と参加生徒たちが指示や位置情報を共有できるアプリも開発し、リアルとネットを融合させた災害訓練を完成させ、浦安市以外の大学、自治体、企業などにも展開していきました。

 

 

 

キャリア支援の仕事にも注力

 

この災害訓練のコンテンツを作っているときに、考え方や行動を強制せず、人が持っている本来の力を引き出す「コーチング」という手法に出会いました。

 

このコーチングを学んだことで、子どもの頃から漠然と考えて来た「いつか人材開発や教育に関わる仕事をしたい」という思いが一気に膨らみます。

 

その後、さきほどお話した医療法人の理事長のお誘いで、医療法人向けのコンサルティングや間接部門の業務代行などを行う会社の社長として仕事を始めたのですが、顧客である医療法人からは採用や定着といった人事に関する相談をされることが数多くありました。

 

そこでコーチングだけでなく、産業カウンセラーやキャリアコンサルタントの資格を取得し、人事面での業務支援の仕事に活かすためのスキルアップを重ねてきたのです。

 

現在は、独立して医療・ヘルスケア系企業の顧問やコンサルティングの業務を行うとともに、夢であった人材開発や教育に関わる仕事を拡大するため、キャリアコーチングやエグゼクティブコーチングの仕事に注力しはじめています。

 

 

 

今後のキャリア支援に向けた思い

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、医療分野だけでなく、多くの方々の働き方、生き方、キャリアのあり方が変わりました。

ポストコロナの社会においても、変化と不確実性の時代は続くと思っていますので、さらにキャリア支援や人材開発の仕事に注力していきたいですね。

 

個人がひとりで自分自身の理想的なキャリアを考え、実現していくことはそう簡単ではありません。

日々の業務に追われる中で自分を振り返る時間をつくることも難しいでしょうし、大学や専門学校などの高等教育の中ですら、十分なキャリア教育はなされていません。

 

書店やWebサイトを探しても、情報が点在していて統合的に自分でキャリアを考えるのは簡単ではないと思います。

結果、色々な情報を持っている転職エージェントに頼らざるを得ない、今の日本の状況を私はそのように捉えています。

 

だからこそ、キャリアコーチングやエグゼクティブコーチングを通じて、多くの方にご自身のキャリアや生き方、働き方や未来について立ち止まって考え、内省する時間を持っていただきたい、そう思っているのです。

 

様々なご縁もあって、40代、50代の経営幹部や管理職の方を中心に、20代、30代の若い方々や大学生・大学院生の方まで幅広くキャリアのご相談に応じています。

私自身が型にはまったキャリアを歩んでいないので、様々な境遇の方々に何か伝えられることがあるのではないかと思い、相談に臨んでいます。クライアントの方から良い結果のご報告や感謝の言葉を伝えていただいたときは、何より嬉しいですね。

 

キャリア支援や人材開発の仕事は、“正解がない”という点で哲学と似ていると思うんです。組織に依存しているだけでは将来が不透明な今の時代だからこそ、自分で自分の人生やキャリアについて考える習慣をつくっていただきたい、そう思っています。

 

 

 

さいごに

 

今後は、1on1のコーチングとともに、対話型の組織開発の仕事も増やして行きたいと思っています。また、哲学プラクティスと呼ばれる哲学対話の実践と研究や、キャリア教育の活動など、人材・組織開発やキャリア支援に繋がる様々な活動に取り組んでいきたいと思っています。

 

これからキャリアプランツさんの活動と連携する中で、多くの方々のキャリア支援のお手伝いができることを心より楽しみにしています。

 

今日はありがとうございました。

 

田口さんが提供されているサービスはこちらです。
https://www.hianextcareer.com/

 

 

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