デザイナーとして生きていく上での苦労と成功

身近にいそうな誰かの人生観をはじめとしたキャリアストーリーをお届けするインタビュー記事。第三回は、Webデザイナーとして就業しながら、デザイン制作の仕事もこなし、CAREER PLANTSのデザイナーとしてお手伝い頂ている赤坂祐輔さんを紹介する。自身のやりたいことは何かを学生時代から見出しながらも、失敗や挫折を味わう社会人としての経験を振り返っていただいた。

 

すべてはデザインで食べていく布石として

 

父親の影響で小さいころから絵を描くのが大好きでした。アートカルチャーや音楽がいつも身近にあって、高校時代やっていたバンドのフライヤーをデザインするのがとにかく楽しかったですね。それがいつの間にか“得意”ではなく“やりたいこと”に変わっていったことで、高校卒業後はデザイン系の専門学校に入学することに。地元・岩手から「東京に出たい! 東京で仕事をしたい!」という想いも強かったですしね。

 

上京後はデザインを勉強しながら、友達から頼まれたバンドのフライヤーを作ったりしていましたが、世の中からの見られ方が大卒と専門卒とでは違うことにだんだん気づくようになります。実際、就職活動ではなかなかいい会社と出会えなかったのですが、本格的にデザインで食べていく前段階として、と自分を納得させ、日立の関連会社でサーバ運用や保守として働くことになりました。

 

昼夜2交代制で夜勤もありましたが、仕事に追われるような大変さはありませんでしたし、先輩たちもみんな優しくて職場が嫌だと思うことはありませんでした。仕事自体はルーティーンワークでしたし、もともとやりたかったデザインの仕事とは違う世界でしたが、デザイン一本で食べていく自信がなかったので、仕事のすき間を見つけながら好きなデザイナーが使っているサイトやグラフィックデザインのSNSを通じて、自分の作品を発信しはじめました。

 

目的は自分自身のスキル向上。そしてデザインが好きな人、同世代で趣味としてやっていて、想いを共有できる仲間づくりです。そうこうするうちにちょっとしたデザイン賞にも入選できるようになり、自信がついてきた部分もあったので「いまこそデザインで食っていこう!」と決意して転職活動を始めます。

 

 

デザイナーとしてのやりがいと挫折を味わう

 

求人サイトでデザイン事務所を探していたのですが、「実務経験が必須」「美大卒」という募集条件にぶち当たります。そんな中、デザイナーとしての実務経験がなくてもインターンで経験を積めば正社員採用の道が開けることを知って、有名邦画のエンドロールを手がけるなど、大手の仕事をやっている代々木公園のデザイン事務所にインターンとして潜り込みました。

 

4人しかいない会社だったので先輩のアシスタントから簡単なデザイン仕事、お使いも届け物も、本当になんでもやりました。交通費とランチ代はもらっていましたが、インターンのため基本的に無給。日中はインターン、夜は居酒屋でアルバイトをしてなんとか生活をしていました。

 

一年ほどでアシスタント業務を一通りこなせるようになり、今度は自分が主体的にデザインしたいという想いが強くなってきたことから、コラージュ(いろんな写真を切り貼りしてデザインを作る)が得意なデザイン事務所に転職します。ここでは印刷物(CD・DVDジャケット・フライヤー・パンフレット・雑誌の広告)を制作したり、アプリゲームのアイコンやキャラクターデザインをしていました。

 

デザインしたものが世の中に出ていく喜びを味わえたのはこの会社が初めて。毎日がすごく充実していましたね。ただ、インターン時代と同じく仕事中心の生活でしたし、正社員雇用されたものの、仕事の満足度と裏腹に生活が厳しくって……。

 

また、デザイン案を10個出しても一つも通らない、自信があっても社長からNGを出され続ける、など、越えられない壁自分の限界を感じて、デザインの仕事から一度身を引いてみようかとまで考え始めました。

 

デザイン愛が足りないのだろうか? 根本的にセンスがないのでは? 社長や他のスタッフと比べはじめて、完全に挫折の念に捕らわれてしまいましたね。ここが自分の限界ではないかと……。

 

 

 

交渉力など新たなスキルを身につける

 

そこで地元に一回戻ることにしました。やり直すならまだ間に合うし、一度体勢を立て直したかったので。ただ貯金がまったくなかったため、まずは実家に戻るために資金として50万ためることを目標に掲げ、時給がよかった工場仕事を始めます。1日12時間働いていましたが、このころの主食は「水でかさ増しした白米」と「豆腐&もやし」。いかに少ない出費で満腹感を得るかを考えていました(笑)。

 

その後、派遣会社に登録をして、高額時給のWeb広告会社のデザイン制作の仕事を紹介してもらいました。工場よりも待遇がよかったですし、デザイン仕事にも触れられるのでいいかなと軽い気持ちで働き始めて……いまに至ります(笑)。派遣からスタートして正社員に切り替わり、すでに5年勤務中。Web広告のデザインなどをメインに手がけています。

 

最近では営業担当に同行してクライアントとの折衝、提案を直接させてもらっています。デザイナーとしての観点から、クライアントとのコミュニケーションや営業ノウハウを少しずつ身につけているところ。営業力や交渉力などの新たなスキルを学びつつ、新たなチャレンジができる環境で不満はまったくありません。グローバル企業ということもあって刺激も多いですしね。安定的な生活を送りながら、デザインの仕事を通じて自己成長を実感できるのが純粋にうれしいです。

 

 

誰かが喜ぶ顔を見るのが、仕事をする上での一番の喜び

 

正社員として働きながら、プライベートの時間でもデザイン仕事を引き受け、自分のやりたい領域・可能性を広げています。いまは学びながらチャレンジする時期ですので、「デザイン」という枠の中でのお仕事であれば断らずにすべて引き受けるようにしています。

 

友人・知人を通じてデザインのお仕事や相談が増えていくにつれて、自分のデザインが誰かの役に立っていると感じるシチュエーションが増えています。既存のデザインのブラッシュアップではなく、「赤坂さんのデザインが好きなんです」と言われることが一番の喜び。そして、オリジナルのデザインを創出するための努力を惜しまないことがいまのモチベーションです。

 

これからのキャリアで実現したいのは、常に新しいことにチャレンジできる環境に身を置き続けることですね。最近では動画制作などにも挑戦させてもらっていますし、SNSやコンペ出品など積極的に“外”に発信し続けながら、35歳までに独立してデザインで食べていきたい思っています。

 

専門学校を卒業してまずは、やりたいこととまったく関係ない会社に入りましたが、時間を自分で作ってコツコツやってきたことがここにきて実り出してきました。それ以外にもかなり回り道をしたように思えますが、「あのときの判断は正しかった!」と、いまなら胸を張って言えます。

 

その時々では「やらなきゃよかったかな……」と後ろ向きになることもありますが、やらない後悔よりもやった上での反省が大事。積極的に人と会い、たくさんの“初めて”に触れることが、自分の可能性を広げることにつながるといまは言い切れます。